歌の「プロとアマチュアの違い」
歌において、
「プロとアマチュアは何が違うか」
って、よく聞かれますし、巷でもよく議論に上がりますよね。
プロは意識が高いとか、
プロはこんな技術があるとか。
でもそれでいて、
「あの人はプロになってもおかしくないくらい上手いのにアマチュアだ」
「あの人はプロシンガーなのに全然歌が上手くない」
「上手ければプロになれるってもんじゃない」
・・みたいな意見もあったり。
それ、どれも正解だと思うんです。
じゃあそもそもプロとアマチュアは何が違うの?っていう話なんですよ。
プロの定義は色々な解釈がありますが、ここではさしあたり、
「生活の糧として、歌うことが収入源の一部(または全部)になっている人」
としておきましょう。
その人の仕事の一部(もしくは全部)に歌うことでギャラがもらえるものがある状態。
(歌の収入だけで生活が出来ているかどうかは、いったんここでは置いておきましょう。)
それでいくと、プロとして歌っている人とアマチュアの人との違いは
「歌を収入源にしようとする気があるかないか」
です。
決定的な違いはそこだけです。
どうしても、
プロは並外れた技術があって、センスもずば抜けてる
みたいに思っちゃいますよね。
もちろん、お仕事にする上で、それがあった方が収入が得やすいのは事実ですし、求められることも多いでしょう。
でも、実際にプロが全員そうだとは限りません。
僕個人的には、プロもアマチュアも、技術やセンスで違いを付けられるものではないと思ってます。
「これが出来てこそプロ」
「これが出来なければプロにはなれない」
みたいなことは基本的にはないってことです。
なぜなら、歌でお仕事をする(プロになる)のに資格はいらないし、決まった基準もないからです。
僕はこれまで、メジャーで活躍しているアーティストも含めて、歌を仕事としているプロシンガーの方も数多くレッスンさせていただいてきました。
みなさんそれぞれ発声や歌唱に悩みを持っているものです。
「それでもプロの人は、アマチュアとは格段にレベルの違うところで悩んでるんですよね?」
って聞かれたりしますが、そんなことないですよ。
アマチュアが出来ないことでもプロは当然できる・・なんてことはありません。
プロは当然腹式呼吸ができてる
プロは声量がある
プロは高音で力まない
プロは枯れない出し方を知っている
プロはピッチやリズムが正確だ
プロは楽譜も読めるし音楽理論にも詳しい
プロは音楽歴が長い(小さいころからやってる)
・・などなど、プロに対するイメージってありますよね。
正直、全然そんなことないです。
こう言っちゃなんですが、上記に一個も当てはまらないプロもいます。
もちろんプロの世界には全部当てはまるような人もいるでしょうが、あまり多くはないと思います。
むしろ、プロの人がなかなかできずに苦しんでいる発声技術を、
アマチュアの生徒さんの方が軽々とやってのけちゃうなんてこともよくあります。
何ができる、何ができないっていうのは単なる個人差であって、
そこにプロとアマチュアで違いは全くありません。
そういう現状が歌業界として良いか悪いかは別として、とりあえずそういうもんなんです。
じゃあプロはどういう人かというと、
歌が収入源になっている人は(それだけで食べて行けてる行けてないは別として)、
「歌を収入源にしよう」と思っているんです。
だから収入になるような歌の仕事を探すし、それに必要なことをしようとするんです。
仕事をする上で技術が求められることも当然多々あります。
それが出来ないと仕事にならない場合は、その技術を身に付けようとします。
だから結果として、ある程度の技術が身に付いている人が比率として多いんです。
でも、技術がそれほど必要とされない(ほどほどにできていればいい)場合もあります。
だから、「あの人あまり上手じゃないのに・・」というプロも存在するんです。
それでも本人が「収入源にしよう」と思っていれば、出来てしまう仕事もあるんです。
それに対してアマチュアは、
プロとの違いという意味では、「歌を収入源にしよう」とは思っていないんです。
ただただプロになりたいとは思ってないのか、自分にはなれないと思っているのか、そこは人によって様々です。
どちらも含めて「収入源にしようと思っていない」(そのための行動をしない)ということです。
だから、どんなに歌唱力がずば抜けてる人でも、どんなに魅力的な歌を歌う人でも、
当の本人が歌を収入源にする気がなければ、プロにはならないわけです。
一方で、「プロになる気はあるけどなかなか収入にならない」という場合もありますよね。
厳しいようですが、それも僕は「収入源にする気がない」んだと思います。
なぜなら、仮に歌唱力や技術が少々乏しくても、仕事を探したり仕事を取ってくることに長けている人は仕事になっちゃうこともあるんです。
そういう人はとにかく「仕事を取ろう」という気力がハンパないので、少々技術が足りなかろうが、それでもお仕事できちゃうんです。
また、技術が足りなくて仕事にならない(やろうと思ってる仕事には技術が求められる)と思ってる人は、
「技術を身に付けよう」(=なんとしてもその仕事をしよう)という気力がハンパないんです。
どちらのパターンも、「そのために必要な行動」をハンパなくするっていうことなんです。
そうすると結果として仕事になるから「プロ」なんです。
プロは意識が高いとか言われるのは、そういったところからだと思います。
運だとか才能だとかって色々言われますが、結局のところはそれも含めて、
「本人にその気があるかないか(その度合い)」で決まると僕は思ってます。
だからと言って、その「仕事にしよう」という気力がある(意識が高い)人が偉いとかすごいとか優れているとか、
気力がない人はダメなんだとか、そういうことじゃないんです。
それを仕事にしたいかどうか、要は本人の好みや度合いの問題。
好みや好きの度合いに、良いも悪いも、偉いもダメも、優れてるも劣ってるもないでしょう。
「プロとアマチュア」というのが、
「歌が上手い人とそうじゃない人」
とか、
「歌の魅力がある人とない人」
では"ない"ということを知っておいていただきたいんです。
そこは切り離して考えましょう。
歌を仕事にしていないからと言って、歌として「プロに劣る」なんて思わなくていいんです。
歌を上達させていったら、その先にあるのは必ずしも「プロになること」なんて無理に思わなくていいんです。
「プロになる気がない=歌を上達する気がない(歌の情熱が薄い)」ということではないですからね。
そのツールでお金を稼ぎたいかそうじゃないか、ただそれだけの選択の違いなんですから。
2016/6/1
ワイドボイス
ボイストレーナー 吉田研吾
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